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井上尚弥選手が初めて勝てるか勝てないか五分五分の相手と戦ったスーパーバンタム級タイトルマッチ。
さすがにバンタム級時代ほど圧倒的な差ではなくなったけれど、危なげなく8ラウンドKOで衝撃の4階級制覇を達成した。

階級最強のチャンピオンで体格も一番大きい部類に入るフルトン選手がリング上で小さく見えた。井上選手が1階級分体重を増やしたことで身体に厚みが出てこれまで以上の存在感だった。

そして、井上選手の構えはフルトン選手の代名詞であるL字ガードポジションだった。前手である左手を下げて相手の攻撃は距離と反射神経で対処する高度なスタイル。
これを歴史上最高レベルで実現したのは50戦全勝無敗で引退したフロイド・メイウェザー。

井上選手のこのスタイルは皮肉なことにフルトン選手以上にメイウェザー的だったように感じる。ガードを下げる代わりに後ろ体重で上半身もやや後方にズレさせている。これによってリーチがかなり長いはずのフルトン選手のジャブは届かない。井上選手は後ろ体重のまま踏み込んで攻撃し反撃があれば下がる。不安視されていた体格差はあっけなくひっくり返された。

メイウェザースタイルを用いる選手は多々いるけれど、上半身を身体の軸付近で重心のコントロールをしながら高度に戦える選手はいないかもしれない。今回の井上選手はこれがあるので少ないリスクで大胆な攻撃を繰り返した。一見大振り過ぎるようなパンチを打っても反撃は許さなかった。

メイウェザーほど上半身は液体的ではなかったけれど、かなり近い感覚にきているように見えた。そして攻めるときはフィリピンの英雄パッチャオのような前進しながらの連打も見られた。

キャリアを重ねる中でだんだん変則的な戦い方になっているけれど、自然と強さを求めていくと伝説的な選手のスタイルに重なっていくものなのかもしれない。

フルトン選手は間違いなく世界屈指の実力者だったけれど、井上選手はちょっと違う次元でボクシングをやっているようだった。そしてまだまだどんどん強くなる。