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風神雷神

原田マハさんの「風神雷神」。

楽園のカンヴァス、暗幕のゲルニカ、奇跡の人が面白かったのでこちらも読んでみた。
俵屋宗達が描いた「風神雷神図屏風」。

超有名な絵であり超有名な絵師ではあるけれど、俵屋宗達のことはちっとも知らない。この知らない俵屋宗達の事が小説で分かるのなら、これほど良い事はないと思っていた。

ところが実際の俵屋宗達は生没年すら分かっていない謎の絵師らしく。したがって小説の宗達はほとんど作者のフィクションになってしまう。
それでも俵屋というのは家業の扇屋さんの屋号で子供の頃から扇子に絵を描いていた、というところは本当のようだ。扇子屋の子供だったと初めて知った。

物語は原田作品によくある現代の主人公がとあるきっかけで古文書と絵に出会い、そこから俵屋宗達の時代の物語が展開されるというもの。過去編の実際の主人公は天正の遣欧使節団の原マルティノであり、使節団と宗達の長い航海の旅行記のような形になっている。使節団の出向前に宗達と織田信長の出会い、狩野永徳と共に洛中洛外図屏風を完成させる話などがあり、出港してからは過酷な船旅の話、そしてポルトガル到着後は、ダ・ヴィンチの絵、ミケランジェロの絵との出会いに同じく少年時代のカヴァッジョとの邂逅がある。

基本的には当時のキリシタンの信仰、旅行記、少年たちの友情の小説になっている。ところどころで宗達の父親が作った風神雷神が描かれた扇子、公開中の嵐と雷の時に感じる風神雷神、それにギリシャ神話におけるユピテルとアエオロス(風神雷神)が出てきてタイトルを匂わせる。

今回はほとんどがフィクションで史実ではないので、少し物語に入り込みにくかった気がする。ただ、さすが宗達の時代編が終わって現代編に戻ってからの終わり方は爽やかで良かった。